当院には脊柱管狭窄症で悩んでみえる方が来院されます。
年齢を重ねるにつれ症状が出てくる代表的な疾患の一つで、高齢者の10人に1人は脊柱管狭窄症
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当院には脊柱管狭窄症で悩んでみえる方が来院されます。
年齢を重ねるにつれ症状が出てくる代表的な疾患の一つで、高齢者の10人に1人は脊柱管狭窄症であり推定患者数は約580万人とも言われています。1)
特徴的な症状として間欠性跛行と言われるものがあります。歩き続けていると徐々に腰や臀部などの痛みが増し、休憩すると楽になるといった症状が出てくることで脊柱管狭窄症だと気づかれる方も多く、また感覚異常なども起こる場合もあります。症状がなかなか変わらず悩まれている人は多いのではないでしょうか?
今回は脊柱管狭窄症の特徴と当院で行っている施術を紹介します。
まず始めに、腰部脊柱管狭窄症の診断基準の明確なものは存在していません。
定義についても完全な合意は得られていないと腰部脊柱管狭窄症診療ガイドラインで報告されています。
これは脊柱管内の馬尾や神経根の圧迫がMRI画像所見でみられたとしても、神経症状を引き起こすわけではないからです。
狭窄の程度と臨床症状の重症度は必ずしも相関しないと言われているため画像のみの診断では不可能と言えます。2)
【脊柱管狭窄症とはどのような状態を指すのか?】
脊椎脊髄病用語辞典ではこのように述べられています。
「腰部脊柱管狭窄とは、腰椎部において先天的、あるいは主として退行性変化による椎間板や黄色靱帯、椎間関節といった神経組織周囲の変性やそれに伴う肥厚により、神経根や馬尾が慢性的な圧迫受けている状態を指す」3)
またNorth American Spine Societyのガイドライン改訂版(2011年版)ではこのように述べられています。
「変性腰部脊柱管狭窄症は、腰椎において脊柱管の続発性退行変化に伴い神経組織と血管のスペースが減少する状態と定義できる。症候性の場合は、腰痛はあってもなくてもよいが、臀部痛、下肢痛や疲労感がみられる可変的な症候群である。腰部脊柱管狭窄症の特徴は、関与する因子によって症状が増悪したり軽快することである。歩行のような直立での運動や特定の体位により神経性跛行が惹起される。また、前屈位や座位の保持、あるいは安静臥床時には症状が軽快することが多い」
つまり年齢による変性と、今までのライフスタイルの中で腰椎や靭帯、椎間関節に負荷がかかるような動きをし続けた結果、骨や靭帯に変性や肥厚が起こり神経や血管を圧迫する状態になり最終的に脊柱管狭窄症になってしまったということです。
器質的に変性したものを元通りにすることは難しく、なぜ腰部脊柱管狭窄症に至ったのかを考え、ストレスを取り除くような動き方を再獲得することが重要であり、それを患者様にも理解していただくことが大切です。
【間欠性跛行】
脊柱管狭窄症の特徴的な症状として間欠性跛行がありますが、これは二つに分けられます。
・神経性間欠性跛行
歩行を続けていると、だんだん下肢の痛みや痺れが出現し、歩くことが困難となりますが、しばらく休むと痛みは消えて再び歩行が可能になる症状です。姿勢で症状が変わり、前屈したり座位になると痛みやしびれは軽減します。また神経根性と馬尾性に分かれ、神経根性間欠跛行では両側または片側の臀部や下肢の痛みが、一方で馬尾性間欠跛行では疼痛は少なく、両下肢、臀部および会陰部のしびれ、灼熱感やほてり、下肢の脱力感が出現します。進行すると、残尿感や催尿感などの膀胱直腸障害が出現することがあります。神経根性、馬尾性の両方の症状が混在することもあります。
・血管性間欠性跛行
神経性間欠性跛行と同様、歩行を続けているとだんだん下肢の痛みや痺れが出現しますが、止まって休むと軽快します。立位だけでは症状は伴わず、関節運動を伴うと症状を呈します。神経性間欠性跛行とは別物になり、閉塞性動脈硬化症、閉塞性血栓血管炎が起因となって起こります。
閉塞性動脈硬化症も似たような症状が出るため鑑別が必要であり、まれに両方を合併している場合もあります。閉塞性動脈硬化症は足が冷たく感じたり、歩いた時だけ症状が起こることがよくあります。
脊椎の変性や神経の損傷は直接的に治療できないため、私たち治療家が出来ることは痛みを起こしている場所のストレスを取り除くことや負担をかけている動きを改善することです。
そのためには
・仕事内容や生活習慣
・よく行っている動作や姿勢
・運動習慣の有無
・喫煙や糖尿、動脈硬化の有無
これらを把握し、脊柱管狭窄症が起こった原因(個人因子、生活習慣や仕事環境、姿勢や動作パターン、心理社会的要因など)を突き止め、患者さんにも理解していただき、そのストレスを取り除く運動療法や指導を行うことが大切になってきます。
【腰部に負担がかかる原因は主に二つ】
・胸椎の可動域制限、胸椎の運動にかかわる筋力の出力低下
・股関節の可動域制限、股関節の運動にかかわる筋肉の出力低下
ここに制限がかかると腰椎が過剰に動き、その結果腰椎周囲の組織が肥厚し脊柱管が狭窄されてしまいます。これらを運動療法で改善することにより、症状の緩和を目指します。当院で行っている運動療法の一例を紹介します。
サイドツイスト
キャット&ドック
四つ這い前後骨盤後傾
痛みが強いときのほとんどが、前屈や骨盤を後傾することで症状が軽快します。これは椎間孔の拡大による神経根の除圧によるものです。
まずこのような姿勢を作り痛みが軽減される姿勢を作り、日常でも腰を反らさない生活をするようお伝えします。
骨盤後傾の可動域拡大が治療を行う上でも重要となるため、継続的に可動域拡大のトレーニングを行います。
RICトレーニング(血管機能の改善)
RIC (Regional & Remote Ischemic Conditioning)トレーニングとは、特殊なバンドを腕や脚に巻きつけてそのバンドに空気を送り込み、腕や脚の血流を一時的に駆血します。その状態から一気にバンドの圧を解放することで堰を切ったように血液を流して血管を拡張させ、毛細血管レベルまで血液を送り込み組織や細胞の回復力を上げる治療器です。脊柱管狭窄症と似た症状を出す閉塞性動脈硬化症が併発していることも考え、当院では積極的に行っております。
最後に痛みが完全になくなることは少なく、症状を少しずつ軽減させQLSを高めることが目標となります。症状が軽減しているにもかかわらず痛みが残っていることに意識が行き過ぎると治療経過が悪くなることが分かっています。痛み自体を焦点に置くのではなく、以前よりも楽になった動作や動きの質の改善などポジティブになったことに意識を向け、患者さんのQOLを高めることにフォーカスすることも治療の一つになります。これを認知行動療法と言います。
認知行動療法とは、認知の修正を目的とする認知療法と、学習理論に基づき行動を変容させることを目的とした行動療法からなる心理療法の一つになります4)。
慢性疼痛治療ガイドラインでも認知行動療法を行う事を強く推奨すると評価されています5)。
具体的には、
・痛みとは何なのか?
・なぜ、痛みが起こるのか?
・痛みの種類にはどんなものがあるのか?
・長引く慢性疼痛はどのような状態を引き起こしているのか?
・慢性疼痛はどのような思考に陥りやすいのか?
・どうするとそこから抜け出せるのか??
これらを患者さんに理解していただき、どこを目標として治療していくのか先述した恐怖回避モデルも用いりながら一緒に考えることが大切です。ここを理解するだけで痛みに対する考え方が変わるため、症状の感じ方が楽になることもあります。
【引用・参考文献】
1)日本整形外科学会診療ガイドライン委員会.他:腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2011,日本整形外科学会ほか(監),南江堂,2011
2) Jensen MC et al:Magnetic resonance imaging of the lumbar spine in people without back pain N Engl J Med. 331(2):69-73.1994
3) 日本脊椎脊髄病学会編;脊椎脊髄病用語辞典,改訂第4版,南江堂,東京,p116,2010
4)有村達之,細井昌子:慢性疼痛の認知行動療法とその進歩―需要と変容へのサポート,Practice Pain Manage,2:p236-239,2011.
5) 慢性疼痛治療ガイドライン作成ワーキンググループ 編.慢性疼痛治療ガイドライン,厚生労働行政推進調査事業費補助金 慢性の痛み政策研究事業「慢性の痛み診療・教育の基盤となるシステム構築に関する研究」研究班(監),p24-26,p117-25,真興交易株式会社医書出版部,2019.
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