なんでも筋肉の炎症⁉ 野球肘 高校生~大人編
執筆者 山本幸治
「なんでも筋肉の炎症!? 野球肘 小学生編 中学生編」に続き高校生~大人編です。
個人差はありますが、高校生になると骨端線(成長線)も閉鎖してきて、ほぼ大人の骨になってきます。そうすると再脆弱部位は「骨」ではなくて筋肉や靱帯などの軟部組織になってきます。
野球選手の肘の手術といえばトミージョン手術が有名ですが、その手術は肘内側側副靱帯の再建手術であり、この頃から内側側副靱帯の問題が出現してきます。
(図1)
上図1が内側側副靱帯です。内側側副靱帯は3本の線維から構成されています(図2)。
(図2)
(図3)
その内側側副靱帯の3本の線維のうち、一番損傷を受けやすいのは図3(黄色)の前斜走線維です。小中高と投手をしてきて、たくさん投げている選手は完全断裂してないまでも、この部位が損傷を起こし腫れてきている選手は多くみかけます。
アメリカスポーツ医学研究所(ASMI)も「若年時からの蓄積によって故障は引き起こされる」という見解を示しています。
図4は内側側副靱帯損傷のエコー画像です。右の健常側に比べ腫れているのがお分かりになるでしょうか?
(図4)
(図5)
ドップラーをかけると炎症反応があるのも分かります(図6)。
(図6)
このように前斜走線維が損傷し、腫れてきていても投げて投げれないことはありません。が、段々と痛みは強くなりそのうちに投げれなくなってきてしまいます。
若年時からの蓄積とはどういうことか?
小・中学生時代は最脆弱部位は骨であり、多くの小・中学生は骨が悪くなると以前申し上げました。大人になるにつれ骨は丈夫になり、骨の障害は消失し治ります。しかしその骨の障害の程度が悪いと骨の変形を残します。
図7、8も内側上顆のエコー画像ですが、右の健側に比し左の患側の内側上顆下端部の骨の形が違うのがお分かりになるでしょうか?
(図7)
(図8)
小・中学生時代の内側骨端核の剥離骨折や分離分節化の治癒後このような変形が残存します。その結果、骨の形の変化(骨端が間延びする)が生じることにより内側側副靱帯の前斜走線維のテンション(張力)に違いが生じます。
靱帯は骨に付着する際、その付着部への距離が違ってきてしまうため、患側は“たわんだ靱帯”状態になってしまいます。靱帯が正常に機能するためには一定のテンションが必要です。たわんだ状態が容易に損傷しやすいのは想像に難くないでしょう(図9)。
(図9)
だから大人になってから靱帯が悪くなってくるのです。若年時に無理をしない!のはこういった理由によります。そうそう気軽に手術を受ければ良いというわけではありません。
アメリカでは一時トミージョンをおこなえば球速が上がるとして、無損傷でも高校生が靱帯再建手術を受けていたこともあるようです。しかし現在ではそれ(球速が上がる)は、同じくASMIによってむしろ球速は低下したとして否定されています。
手術後の一部の選手が球速が増した理由は、手術によるものではなくリハビリによって下半身が強化されたり、投球フォームが改善されたことによるとされています。やはり体にメスをいれるということは最終手段にしたいものです。
悪くさせないことが一番良いことではありますが、それでも悪くなってしまった場合、当院では体外衝撃波やLIPUS(低出力パルス超音波)を利用しながら徒手療法をおこなっていきます。
また、なぜ靱帯がダメージを受けるに至ったか、若年時の無理以外にも、体の柔軟性や使い方、投球フォームや運動連鎖の問題があることも多く、大局的な視野を持ち治療していくことが大切になってきます。
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