胸郭出口症候群(TOS)と野球

胸郭出口症候群(TOS) 野球

執筆者:院長 山本幸治

執筆者 山本幸治

 

 胸郭出口症候群(以下TOS)は前頚部や前胸部などで上肢に行く神経や血管が圧迫され、肩や腕、手などの痛みや痺れ、動かしにくさなどを引き起こす疾患です。

 

 

エコー

(Sportsmedicine, 2013より)


 手を高く上げて行う動作などを繰り返し行う場合に発症しやすく、やせ型でなで肩の女性に多いとされていましたが、最近ではオーバーヘッド動作を行うスポーツ選手にも多く発症することが分かってきています。

 


 特に野球の投手などは繰り返しの投球動作により発症しやすく、TOSとなるのはプロ野球レベルの選手に限った話では全然ありません。

 


 小学生などでも体が未成熟であるがゆえにTOS症状を発症するものは多く見受けられます。しかし子どもの場合は自分の症状を大人に伝えることが上手でなく、多くは「気持ちの問題」とか「根性が足りない」などといわれ、放置もしくは見逃されてしまっていることも多いと思われます。

 

 

 ご自身、お子様にこのようなことはないでしょうか?


・試合最初は調子よかったが急にコントロールが乱れ始める
・利き手なのに非利き手より握力が弱い
・腕を上げているとすぐにダルくなってくる
・野球肘と言われたが投球中止にしていても一向に治らない
・昨日は肩、今日は肘、その前は前腕部と脈絡なく腕全体が痛くなったりする
・ボールをポロっと落としてしまう
・数球投げ急に力が入らなくなる
・ランニングしていると手がしびれてくる
等々

 

 

 徒手的な検査はライトテストやRoosテストです。

 

ライトテスト 胸郭出口症候群 Roosテスト 胸郭出口症候群

 


 TOSには、圧迫タイプや牽引タイプ、もたそれらの混在した混合タイプがありますが、前述したとおり見逃されやすい疾患でもあり、病状を丁寧に聞いたうえでTOSを疑って検査、判断していくことが大切になります。

 


 正確に診断するためにはCTや血管造影など専門医での検査が必要になりますが、初期スクリーニングとしては超音波エコーも有用な手段の一つとなります。

 

 

 当院でもTOSの判断にエコーを使用しておりましたが、先般、慶友スポーツ医学センターのセンター長であられる古島弘三医師のセミナーを拝聴させていただき、更なる知見を学ばさせていただきました。

 

 

【鎖骨下動脈の収縮期最大血流速度 PSV(Peak Systolic Velocity)】

ドップラーエコーにて

 

・下垂位
・90°外転位
・最大挙上位

 

で血流速度を測定し比較します。

 

 

上肢を挙上するほど血流速度は低下します。(注:軽度の狭窄では上昇する例もある)

 

 

【前・中斜角筋間距離 ISD(Inter scalene distance)】

 神経血管束が通過する前・中斜角筋間距離を測定します。


 TOS症状がない方の平均は10mm前後。

 下エコー画像は私自身のISDを計測したものです。
 11.7mmあり正常です。

 

胸郭出口症候群エコーISD

ISD 胸郭出口症候群 TOS

 

 

 

 次のエコー画像は当院に通院中の野球選手のISDです。

 

胸郭出口症候群 TOS ISD 胸郭出口症候群 TOS ISD

 

 4.8mm。狭いですね。

 

 

【NVBの位置関係評価】

 古島先生が鏡視下所見をエコー評価に置き換え、神経血管束(NVB)を3 Typeに分類したものです。

 

・Parallel type は動脈の横に神経がしっかりと見えているもの
・Oblique type は神経が押され一部しか見えていないもの
・Vertical type は完全に動脈の後ろに追いやられてしまったもの

 

TOS 胸郭出口症候群胸郭出口症候群 TOSTOS 胸郭出口症候群

 

 

 

 Verticalになるほど神経血管は圧迫されやすくなり、TOSになりやすい形態をしているということになります。

 

 

 次図は当院通院中の小学6年生の野球選手です。

 神経束は完全に後方へ押しやられ、見事なVertical typeです。

 

TOS 胸郭出口症候群

 

 

 一時、ひどいときにはたったの2球投げただけで腕が痛みと共に痺れ、力が入らなくなりボールが投げられなくなっていました。

 

 

 現在では神経血管束のスペースや通り道に余裕をもたせる施術を行い、フォームや体の使い方を工夫することで、まだあまり無理はできませんが、通常に投球することが出来るようになっています。

 

 

 この選手は名古屋スポーツクリニック様とも連携させていただきながら施術をおこなってもおります。

 

 

 投球時の痛みが中々改善しない場合、このような胸郭出口症候群(TOS)である場合も意外と多いのです。

 

 

 投球時痛が思ったように改善しないとお悩みの方は、一度ご相談にいらっしゃると良いかもしれません。

 

 

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